1日目のカレー

とあるウェブ編集者が、仕事からは一歩距離をとって「一筆書き」する場所。熟成前の「1日目のカレー」的な考えを書き溜めていきます。ビジネス・テクノロジー領域から思想・哲学領域まで、幅広く仕事しています。

笑ってしまうくらいの思想性が、未来への原動力となる(『WIRED』日本版VOL.31書評)

雑誌は、思想のシャワーみたいなもの。

特定の思想をバックボーンに、さまざまな論者が、多様な角度から世界を語る。

それは時に暴力性を孕むかもしれない。

だけど、そうやってスタンスを取ることで、はじめて世界が変わることもある。

ポリコレ棒を振りかざして思想を排除するのではなく、その思想が持つ推進力を、いかにしてポジティブに作用させていくのかを、まじめに考えるべきだ。

 

『WIRED』日本版VOL.31を読み、そんなことを考えました。

新編集長・松島倫明氏が率いる体制になって、はじめての刊行。

テーマは「ニュー・エコノミー」。

 

カリフォルニアン・イデオロギーのシャワーが、気持ちいい。

ページを繰る手が止まりませんでした。

とにかく、カリフォルニアン・イデオロギーに立脚した論考が、これでもかというくらいに降りかかってくる。

特に冒頭の特集は圧巻で、ケヴィン・ケリーやクリス・アンダーソンなど、WIREDを代表する方々が、時には「WIREDは25年前に今の状況を予測していた。すごいだろ。」的な正当化(?)を交えながら、この25年を振り返っていく。

僕自身、カリフォルニアン・イデオロギーに100パーセント賛同するわけではないですが、それでも気持ちよかった。

強烈なポジティブさは、その内容如何にかかわらず、人を爽快な気分にさせるのだと思い知らされました。

自分は、「バランスを取って生きよう」とある種一歩引いて眺める人文学的見地に完全に立つことは嫌だ、と思いました。

ポジティブさで世界を変える、カリフォルニアン・イデオロギー的な観点に立脚しつつ、ポジティブな形で人文知を接続させたいです。

 

特におもしろかったトピック3選

個人的に特に面白かったトピックは以下の通り。

 

●コーポラティビズム

→普段から抱えていた、GDPRのようなデータ囲い込み運動への違和感を解消してくれるのではないか、と思わされるトピックでした。

 

●データ資本主義の特集

→どの論考も面白かったです。やはり自分の関心領域の中心はこの辺りにあるのだなと再確認。

 

●冒頭の特集

→先述のように、カリフォルニアン・イデオロギーのシャワーがものすごかったです。また、東浩紀が入っていた点が、ある種のフラットさが感じられてよかったです。カリフォルニアン・イデオロギーとは対極に位置している人だと思うので。

 

イベントがとにかく熱くて、最高でした。

そして、刊行に際して開催された「WIRED NEXT GENERATION 2018」にも顔を出してきました。

wired.jp

内容もさることながら、とにかく熱量がすごかったです。文字通り「ゲリラ激論」が実現されていたと思いますし、高校生から中年男性まで、食い入るように議論を聞き、時に食ってかかっていく様子は圧巻でした。

いつかこんなイベントをつくってみたいと思わされましたね。

スピーカーが基本的に25歳以下だった点も、非常に刺激を受けました。

 

雑誌というメディア

また、雑誌というメディアが持つ特質についても考えさせられました。

Webメディアや書籍と比べて、以下の理由で雑誌は思想性が伝えやすいのではないかと思いました。

Webメディアと比べて、滞在時間が長い

Webメディアは、一度に読むのは一つのメディアあたり、せいぜい数記事です。対して、雑誌は数時間続けて読むこともしばしば。記事数にして数十記事になることも。思想性を強く感じてしまうのも当然でしょう。

書籍と比べて、思想が表に出てきていない

書籍は、「さぁ、この著者の言っていることを聞くぞ」という心持ちで読みます。つまり、強力な思想性を期待して読むし、それを受け止める用意もある。だから、ある意味批判的に読めると思うんです。対して雑誌は、1記事1記事の思想性が濃い分けではない。せいぜい数ページの論考ですから。ただ、塵も積もれば山となります。身構えていないこともあいまって、じわじわと思想が侵食してくるのではないでしょうか。