1日目のカレー

とあるウェブ編集者が、仕事からは一歩距離をとって「一筆書き」する場所。熟成前の「1日目のカレー」的な考えを書き溜めていきます。ビジネス・テクノロジー領域から思想・哲学領域まで、幅広く仕事しています。

「市場規模●●億円」と言われてピンと来るひと、来ないひと(シバタナオキ+吉川欣也『テクノロジーの地政学』書評)

「▲▲の市場規模は、2017年には●●億円にのぼり...」–––ビジネスに関する書籍や記事を読んでいると、よくこうした表現に出会います。

 

自分は、こういう一節を見て、ビビットに理解できた試しがありません。

「へぇ〜、大きいんだ〜」くらいの感想を抱いて、そのまま頭からすっきりと抜け落ちてしまう。

ビジネス・テクノロジー領域の編集者になった今も、正直、あまりしっくり来ないです。

 

理由を考えてみたのですが、結局は「自分が大規模なビジネスを動かしたことがないから」に尽きる気がします。

おそらく年商数億円規模のビジネスの事業責任者を務めたことがあれば、それに照らし合わせてイメージできるのだと思います。

確かに自分も、1ヶ月に数百万円の広告予算を動かしてマーケティング施策を打っていたことがあるので、企業が使うマーケティング費用についてはもっと高解像度で理解できる気がします。

 

となると、こうした数字を理解できるようになるためには、あらゆる規模のビジネスを動かす経験を積むしかありません。

つまり、ビジネス領域においては「事業家」が「評論家」であり、カルチャー領域のように単体の「評論家」が生まれにくい構造になっているのではないでしょうか。

 

しかし、自分は事業家になりたいかと言われたら、あまりそうでもない。

そうなった時、「自分のやるべきことは何か?」と考えると、やはり「このビジネスで世界が質的にどう変わるか」を考えることなのだと思います。

もちろん、市場規模や売上といった量的な理解もある程度はできないといけないし、そこの解像度を上げる努力は怠る気はありません。

けれども、自分が考えるべきこと、考えたいことは、「このサービスで人間がどう変わるか」なのだと、改めて合点がいきました。

そのために、質的な情報・量的な情報を、時間の許す限り取りに行こうと思います。

 

今回読んだ『テクノロジー地政学』も、まさに「市場規模●●億円」といった表現のオンパレードでした。

人工知能」「次世代モビリティ」「フィンテック」など、ジャンル別に統計データや主要プレイヤーの詳細、そして有識者のコメントが収録されており、現代のビジネス・テクノロジーの大状況が手軽に分かります。

シリコンバレーと中国の比較が主になっているのも、中国の凄まじさが伝わりやすく、良いコンセプトだと思いました。

だけど、「このビジネス・テクノロジーによって、人間はどう変わるか?」についての記載はほぼありませんでした。

この本は面白かったけれど、「質的」な方面で書いてみたいと思わされました。